訪問者数

ウィンドウシステムの出現

Alto

 Apple II やPETが使いやすいコンピュータであったのは事実であったが,キーボードから指令(コマンド)を打ち込んで動作させるという点ではそれまでのコンピュータと同じであった.このようなインターフェイスを Character User Interface(CUI)と言う.

 ゼロックス社は Smalltalk という Operating System(OS)を搭載してユーザインターフェイスを一新したコンピュータ Alto を1972年に発表した(Smalltalk は Alto の OS の1つ).それは以下のような特徴を備えていた.これらは今となっては「当然」と考えられており,取り立てて「特徴」とは考えられないものであるが当時としては先進のシステムであった.
  1 ビットマップディスプレイ
  2 マルチフォント/スタイル/サイズ
  3 プロポーショナルフォント
  4 マウス
  5 アイコン
  6 マルチウィンドウ
  7 ポップアップメニュー
  8 画面で見た通りの印刷:What you see is what you get(WYSIWYG)
  9 Ethernetの開発版

 Smalltalk の操作はマウスとポップアップメニューで選択するコマンドによっている.すなわち,文字でコマンドを与えるのではなく,画面上にグラフィック技術で描き出したアイコンなどで操作した.このようなインターフェイスを Graphical User Interface(GUI)と言い,Macintosh や Windows でおなじみの手法である.

 CUI は英語の文法に近い構造を持っている.例えばUNIXで「/etc」というディレクトリ(フォルダ)に含まれるファイルの名前を知りたい時には,
  ls /etc
のようなコマンドを与える.コマンド「ls」は動詞「list」の略で,それが先頭にあるので命令形の「列挙せよ」である.list の対象は「/etc」というディレクトリである.このように実行すべき主題(Subject)を中心にして動作を指示する方法を Subject 指向と言う.この方式は,命令形の動詞の後ろに対象物を書くので英語の文法である.

 これに対して GUI では基本的に対象物(Object)に対してメッセージを送ることにより期待した動作を行わせる(Object 指向).それを容易にするためにアイコンが使われている.アイコンの第1の役割は対象物を図形で示すことである.

 MacintoshやWindowsで普段何気なく行っている「ファイルアイコン」のシングルクリックは,そのアイコンが表しているファイル(Object)に「選択状態になれ」というメッセージを送っているのである(正確にはファイルそのものにメッセージを送っているのではない.Macintosh を例にすると,Finder というアプリケーションがクリックしたアイコンを選択状態にしている).また,文字列を選択して「コピー」するのも対象物として文字列を指して「コピーせよ」というメッセージを与えているのである.「ファイル※※を選択しろ」や「文字列☆☆をコピーしろ」が日本語の語順である.
 初期の Windows ではメニューからコマンド(例えば「消去」など)を選んでから対象物を指定するという古いインターフェイスが多く見受けられた.これは Microsoft 社が悪いのではなく,アプリケーションソフトの開発会社がよく理解していなかったことによる.

 上記と同様なものとして,算式の逆ポーランド記法がある.通常,「2に3を加えて4で割ったものの log を求める」を一般的な算式で書くと,「log((2 + 3) / 4)」 のように括弧が必要となる.しかし,逆ポーランド記法では「2, 3 + 4 / log」になる.これは先に言葉で述べたものを記号で表しただけでまさに日本語の語順である.どんなに複雑な式でも日本語で考えた通りに書けばよく,括弧を必要としない.かつてはヒューレットパッカードから逆ポーランドで入力できる関数電卓が出ていたので大変重宝したものであった.

 かつてvideo.google.com にあった Smalltalk のビデオを見るとその操作の様子に大きな違和感がなかった.実際に使ってもすぐに馴染むことができた.それほど洗練されていたのである.Altoが提供したSmalltalkの環境は革命的なものであった.しかし,その価格も高く個人での購入は2の足,3の足を踏まずにはいられなかった.

Xerox Alto(1973年)

LisaからMacintosh

 ゼロックス社は革命的な GUI のシステムを世に出したが,その後はその方向を熱心に追求しなかった.その頃Apple の後継機種を開発していた Apple社は Smalltalk のインターフェイスに目を付けた.その結果,独自 OS の下で Smalltalk に似た GUI 環境を構築して 1978年に Lisa という名前で発表した.この Lisa は Alto 程ではないが,高価であったためにあまり普及しなかった.その後,より安価な Macintosh の登場によりウィンドウシステムが広がりを見せた.

 製品版の Lisa のデスクトップ はMacintosh とよく似ている.また,マウスボタンは1つである(開発途上では Smalltalk と同じ 3ボタンも検討された).

Lisa(1978年)の外観

Lisaのデスクトップ

 初期の Macintosh は Lisa の上で動作したが,すぐに 128KBのメモリを搭載した専用機が1984年に発売された.Macintosh も Alto 同様 WYSIWYG の環境を提供していた.特に初期のモデルはディスプレイで見たものとほぼ等しい大きさの印刷結果が得られた(現在の Macintosh では通常画面の方が小さい).なお,Macintosh の標準解像度が 72DPI(1ドットが1/72インチ)であるのはドットサイズと活字のポイントサイズがほぼ一致するという理由で決められた.印刷を強く意識したシステムであることが分かる.

 Apple がカラーコンピュータを普及させたにもかかわらず,Lisa と Macintosh はモノクロであった.カラーの Macintosh は「Macintosh II」を待たねばならなかった.

Macintosh 128K(1984年)

 初期の Macintosh はプログラムを行う環境を持たなかった.Apple社は Macintosh の位置付けを「文房具」としていた.その位置付けを保証するために MacWrite(ワープロ)と MacPaint(描画ソフト)を添付した.

 Macintosh が発売されるとサードパーティーのソフトウェア会社も次々と供給し始めた.例えば,Mocrosoft社のエクセル,ワード,Adobe社のフォトショップ,イラストレータ,その他,ページメーカー,パフォーマなどである.  Apple 社は標準的なインターフェイスのガイドラインを提示していたので,ソフトウェアの開発会社が異なってもユーザインターフェイスが基本的に同じであった.それが Macintosh の使いやすさにつながった.

 Macintosh の CPU は変遷を重ねている.初期の Motorola の 68000系に始まり,Motorola/IBM の PowerPC を経て現在は Windows と同じ Intel になっている.最近の Macintosh は周辺チップを含めて IBM PC-AT互換機と同じような構成になっているために Macintosh の上に Windows をインストールできる.なお,PowerPC系の Macintosh は 68000系のソフトウェアを使用でき,Intel系の Macintosh は PowerPC系のソフトを使用できる(最近のものは使用できない).サードパーティーの製品には Intel系の Macintosh の上で 68000系のソフトを利用できるようなシステムもある.

 Macintosh の OS は基本的に2つある.一方は「MacOS 9.2」を最終版とする旧来の OS で,対象とする CPU は 68000系と PowerPC である.Apple社は既に旧 OS の開発を中止している.他方は現行の「MacOS X」である.これの基盤は UNIX で(と単純に言うと誤りであるが...),本来なら CUI環境である OS に GUI を被せて PC に仕立て上げたものである.こちらが対象としている CPU は PowerPC と Intel である.PowerPC 上の OS X(V-10.4まで)は MacOS 9.2 を仮想 OS として起動できるので 68000系のソフトウェアも実行できるようになっている.

Microsoft Windows

 Microsoft社の初期の16ビットCPU(Intel 8086)用の OS は MS-DOS であった.初期の MS-DOS は Intel 8080(8ビット CPU)系で標準的に使われていた CP/M とよく似た機能を備えていた.もちろん,動作環境は CUI であるが,後期のアプリケーションでは疑似 GUI環境を提供するものもあった. マイクロソフト社は MS-DOS に続いて Windows を出したが,初期のものは MS-DOS の上で動作していたので,Windows は完全に新しい OS という訳ではなかった.32ビット CPU を対象として新たに設計した Windows NT に至ってやっと新規の OS になってきたが,GUI環境はお粗末であった(対象をワークステーションとサーバに置いていたので GUI を重視しなかったのであろう).

 Macintosh の発表の翌年,Microsoft社は Windows 1.0 を発表した.その後,1987年に Windows 2.0 を1990年に Windows 3.1 を発表して現在は XP,Vista を経て Windows 10 に至っている(XP 以後は Windows NT 系).Windows は IBM PC-AT およびその互換機で動作するソフトウェア(OS)として発売された.

 Windows 1.0 は MS-DOS に毛が生えたようなもので,とてもじゃないが Window システムとは言えないものであった.この状況はバージョンが上がるにつれて改善されたが,そこそこ使いやすくなったのは Windows 95(1995年)になってからであった.しかし,Windows 95 も MS-DOS の16ビット CPU 用のコードを多数内包したものであった.

 「Windows は Macintosh の物まね」などと言われることもあるが,全体としてはそうではない.どちらも基本的な考え方のヒントを Smalltalk から得ているので似ている部分があるのは当然である.

 Microsoft社はApple社のようにインターフェイスに関するガイドラインを出さなかった.そのため初期のアプリケーションソフトはインターフェイスがバラバラで,マニュアルなしには基本的な機能の利用も難しいものであった.Windows 3.1の頃から Microsoft Exel, Word などの Macintosh のソフトウェアが Windows に移植されるようになり,インターフェイスが徐々に統一されていった.

 Windows の CPU は一貫して Intel系で初期の 8086 に始まり,80286,80386,Pentium などのいわゆる86系列である.また,OSに関しても1種類と見てよい(Macintosh の新旧 OS 程の差がない).強いて違いを探すならWindows NT 系が Windows Me までのものと若干異なっている程度である.

 皮肉なことに,Macintosh が UNIX に GUI を乗せたシステムに変わったことにより,ユーザインターフェイスが Windows のように悪化したように感じるのは,.......

Windows 1.0(1985年)
 

Windows 2.0(1987年)

Windows 3.1(1990年)

戻る